LINE漫画で読む漫画に迷っている人におすすめの作品が『入学傭兵』という漫画です。
あらすじを載せておきますと、
飛行機事故で両親を亡くし、10年間、異国の地で傭兵生活をしていた帯刀荘馬。ある日、記憶を取り戻して行き別れた家族である祖父と妹に会うため帰国する。日常を取り戻した壮馬は、妹・由利奈が通う高校に編入することとなる。しかし、妹の由利奈はクラスメイトたちにいじめられていた。壮馬は、いじめている生徒たちを傭兵生活で培ってきた格闘術や殺人術で・・・・。
あとの展開は想像の通りです

なぜ人気が出たのか?
この漫画、なぜ日本で人気が出たかと言いますと、実のところ「完全な」「勧善懲悪」で読んでいて気持ち良いからというのがあります。昨今の国産漫画は主人公や周囲が不幸になり、そこから這い上がったり、苦難を乗り越えて成長していくタイプか、絶望的な戦いに身を投じるというかなり「暗い」「シリアス」な展開が主流となっています。
とりわけ、『進撃の巨人』や『チェーンソーマン』、『鬼滅の刃』、『ヒーローアカデミア』などは昨今の日本を取り巻く不景気や理不尽な環境を象徴し、共感を集める方向で流行していました。
共感を集める方向性の漫画はさらにエッセイ漫画へとシフトしていき、Xなどでは「実体験」と称した共感できる暗い話が横行しています。
実はこの流れに逆らうかのように人気になった漫画が『スパイ×ファミリー』や『ゴールデンカムイ』などです。
しかし、多くはストーリーが「一部制」であり、長期連載を耐えうるために、二十数話を一部として構成する仕様であるため、過酷なシーンが多く存在します。問題解決に至るまで、何十話と話を重ねなければならず、一部が終了したとしても読者の心が晴れることはあまりありません。
ところが『入学傭兵』にはそれがありません。
完全なる勧善懲悪で、それに至るまでには十話程度で済みます。
展開は図のようなワンパターンです。

問題が発生する → 主人公やそれ以外のキャラが困難に遭遇する → 主人公が問題を認識する → 主人公が助けることで問題が解決する
『入学傭兵』は、このサイクルを十話程度で繰り返します。これに関しては韓国国内のレビューでも「さすがにワンパターンすぎる」と批判されているようです。
そして読者はそれに違和感を覚えません。なぜなら暗い展開は、物語の第一話前ですでに終わっているからです。他漫画で描写するような暗いダークシリアスな展開は、『入学傭兵』ではすでに最終回を迎えています。回想シーンでたまに主人公が過去に遭遇した暗い話が描写されますが、それも後にほっこりする展開が待ち受けているため苦痛にはならないでしょう。
主人公の魅力
主人公である帯刀壮馬は、元傭兵です。それ以前は飛行機事故によって武装ゲリラ組織のリーダーに拾われ、死と暴力が渦巻く暗い幼少時代を過ごしていました。ゲリラは身寄りのない子どもを集めて『ナンバーズ』と呼ばれる暗殺者集団を結成しました。壮馬はそこで訓練を重ね、『ナンバーズ』のリーダーである「001」の称号を獲得します。
『ナンバーズ』の分かりやすさは、番号順に強さが測られている点です。つまり、暗殺者集団の中で、壮馬は最強の暗殺者だったわけです。しかし、関係のない民間人を殺害するなど残忍で理不尽な任務に反発し、ついに『ナンバーズ』から離脱します。彼が次にやって来たのは、ある傭兵村でした。彼はそこで「M」というコードネームの傭兵となり、今まで殺害した人数以上の人々を救いだします。
こうしたバックボーンを持つ壮馬は、作中でもほぼ敵なしです。『ナンバーズ』のメンバーでようやく苦戦する程度であり、その中でも「002」と「003」には悩まされることになります。
壮馬はただの殺人鬼ではありません。彼は『ナンバーズ』や母国で見つけた妹や祖父を「家族」と称して大切にします。『ナンバーズ』に裏切り者として殺されそうになっても、彼らを救い出し、優しく接します。そして友人も大事にします。彼らが理不尽に遭遇した時、壮馬は暗殺者時代、そして傭兵時代に培ってきた戦闘術を活かして、彼らを救い出すヒーローになります。
そしてどんな敵であろうと必ず勝ちます。
相手が不良だろうが、暴力団だろうが、雇われた殺し屋や特殊部隊の兵士だろうが、某国の政治家やビジネスマンだろうが関係ありません。彼は向かってくる敵を力と技術でねじ伏せるのです。
ウェブトーン漫画をアニメ化するという愚
近年、ウェブトーン漫画もアニメ化するケースが増えました。「俺だけレベルアップ」シリーズもさることながら「外科医エリーゼ」や「私が公爵邸に行った理由」も韓国ウェブトーン漫画が原作です。
ただ、個人的にはウェブトーン漫画はアニメ化が不要であるように思います。理由は単純で、ウェブトーン漫画はすでに作画絵師や色彩絵師、漫画絵師、構成作家が一作品数人体制で描かれているからです。その規模は小規模のアニメ作品と同じだといえます。つまり、既にその時点でアニメクオリティなわけです。
私としては「外科医エリーゼ」のストーリー改変や作画の不安定さ、「俺レベ」がいまいち漫画よりも盛り上がりに欠ける、「誰だお前?」というキャラ(妹など)がいるなどで、かなりの不満があったのも事実です。
ウェブトーン漫画を読んだ方が、盛り上がるんです。
「私が公爵邸に行った理由」も、ウェブトーン漫画は非常に面白く、課金が止まらなかったのですが、アニメ視聴は苦痛でした。展開がわかっている以上に、あまりウェブトーン漫画を読むときのようなドキドキわくわく感が全くなかったのです。
なぜだろうか、と色々考えました。
モノクロ漫画は情報量が多く、ウェブトーン漫画は情報量が少ない、アニメはさらに情報量が少ない
ウェブトーン漫画の強みは、作画やストーリーのシンプルさです。つまり、情報量の少なさであると思います。
セリフも少なく、説明口調があまりないのも特徴です。日本漫画であると解説のために文字数がどうしても増える場合があり、シンプルさに欠けます。その分のストーリー構成がしっかりしているため、そうならざるを得ません。
その場合、アニメ化することで情報量が圧縮されます。
しかし、ウェブトーン漫画の場合はシンプルさが売りです。ウェブトーン漫画は、既に日本アニメと同じように情報量に圧縮されている状態なのです。そのため、ストーリーがワンパターンになりますが、それもシンプルさを活かすための犠牲です。そのため、アニメ化するとさらに情報量が圧縮されてしまい、とんでもなく簡素な物語が展開されてしまうのです。
これが、例えば実写であるならばまだ情報量は多くなると思います。実写は作画崩壊やデザインを簡素化できません。人間と実際の建造物や小道具があるため、漫画と同程度の情報量が保障されるのです。だからこそウェブトーン漫画が韓国ドラマや映画などで実写化されるわけです。
一言で言えば「シンプルイズベスト」です。スティーブ・ジョブズ氏も、
シンプルであることは、複雑であることより難しい場合がある。物事をシンプルにするためには、思考を整理して懸命に考えなくてはならない。しかし、努力する価値はある。
という言葉を残すほどに「シンプルさ」を追求していました。彼はiPodを開発中、好きな楽曲にたどり着けるまでに3クリックで済むように設計することを心がけていたといいます。
ストーリーにもシンプルさが必要なのです。その一つには「予測可能性」という言葉があります。この後、どういう展開かがわかっていることが重要であるという意味です。
ただしミステリーとホラーはシンプルさが命取りになります。あくまでもアクションや恋愛要素で。
モノクロ漫画をカラーにして動かすことの意味
次に、日本漫画はモノクロが主流です。ウェブトーン漫画のように色は白と黒以外ついておらず、コマ割りでストーリーが展開されていきます。
逆にウェブトーン漫画は、カラーが主流であり、コマ割りはほぼなく、縦スクロールで展開されていきます。紙媒体にするとコマ割りは一応行われますが、非常に簡素です。
このことから、日本漫画はアニメ化するとそのインパクトが非常に高くなるのが特徴です。それに対してカラー主流のウェブトーン漫画はアニメ化したとしても、インパクトが薄くなってしまう欠点があります。
また、お値段の問題もあります。通常モノクロ漫画では600-700円の価格帯です。しかし、ウェブトーン漫画は紙媒体にすると1200円から1500円と割高になります。もともと日本漫画は印刷コストや雑誌に最適化するためにモノクロである必要がありましたが、ウェブトーン漫画は「ウェブ」という用語が付いているように多くがネット、その中でもスマホ産業に最適化されたコンテンツです。だからこそ、双方には大きな違いがあるわけです。

どれが一概に良いか?は言えないでしょう。
日本の主流となっているモノクロ漫画は名作を生み続ければ今後も勢いを増すでしょうし、ウェブトーン漫画も、手軽さという点では勢いをつけている状態です。
しかし、個人的には日本のモノクロ漫画作品はウェブに向きません。人間はテレビが生まれてから「カラー」という概念が当たり前になりました。この根底にあるのは「画面には色のついた絵が存在する」という固定観念が植え付けられているということです。
しかし、雑誌や漫画本は「モノクロ」という固定観念があります。安価ですし、紙媒体ならばそれが自然という意識が植え付けられています。
しかし「画面」はそうも行きません。何せ色を付けることができる媒体なので、どうしてもカラー化されたコンテンツの方が人気は出てくるでしょう。すると、色を付けていないモノクロ漫画がネットで売れ行き好調となるにはよほどの人気タイトルにならない限りは不可能に近いです。
この法則を見誤ると、日本の漫画業界もアニメ業界も危機に直面してしまうでしょう。モノクロだからこそ、漫画原作のアニメは人気が出るのですから。